「TBS IDの基盤構築」
受発注の関係を超え、サービスの「その先」まで伴走する事で、期待以上の開発プロジェクトが実現
「ときめくときを。」というブランドメッセージを掲げ、放送の枠を越えたコンテンツ提供企業を目指すTBSグループ。
中期経営計画「VISION2030」を策定し、ライブエンタテインメント事業、通販事業やライフスタイル事業、不動産事業など放送事業外の売上比率を、2020年の40%から2030年には60%にまで拡大しようとしています。この目標を達成するために欠かせないのが、グループ横断でのマーケティング施策であり、それを支える共通インフラの構築でした。
この事例のポイント
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お客様の要望
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- 事業領域を横断して使える顧客基盤を自社で構築したい。
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お客様の課題
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- 開発の内製化を進める上で、開発パートナーであるTBSグロウディアと他のパートナーとの役割が曖昧だった。
- 役割の明確化や、意志をもった開発体制の構築に加え、ベンダーコントロールの方法が不明確だった。
- インフラ構築の不足している知見を埋めてくれるパートナーが必要だった。
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導入したサービス
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- ANDGATE クラウド構築
顧客基盤と全基盤にまたがるインフラ構築をアンドゲートが担当。
新規のプロジェクトで「明確な課題」と「潜在的な課題」が潜んでいる中で、
社内の人間で運用できるように内製化を「学習コストが低いこと・運用コストを下げられること」を軸に、体制を整えるところから共に事業ゴールを目指して、日々どのような取り組みを行なってきたのかを株式会社TBSホールディングス、株式会社TBSグロウディアの方に伺いました。
お話を伺った方
TBSホールディングス
マーケティング局
ビジネス戦略部
藤居 氏
マーケティング局
ビジネス戦略部
川合 氏
TBSグロウディア
デジタル技術事業本部
ソリューション営業部
安藤 氏
デジタル技術事業本部 開発部
バイススペシャリスト
鎌田 氏
デジタル技術事業本部 開発部
星 氏
デジタル技術事業本部 開発部
楯 氏
目次
EDGE戦略から発足された「TBS IDプロジェクト」
TBS IDプロジェクトが発足された背景を教えてください。
川合 2020年から「最高の”時”で、明日の世界をつくる。」というブランドプロミスを掲げ、最近では「ときめくときを。」というブランドメッセージを掲げるなど、放送の枠にとらわれないコンテンツグループへと変革しつつあります。
実際にTBSグループではテレビ/ラジオ放送に加えて、配信事業・海外ビジネス・ライブエンタテインメントを柱とする「メディア・コンテンツ事業」、雑貨小売販売、通信販売、ビューティ&ウェルネスや教育などの「ライフスタイル事業」、都市開発を含む「不動産事業」など多様な事業を行なっており、VISION2030のEDGE戦略(※1)の中でデジタル・海外・ライブ&ライフスタイル事業の拡張領域にリソースを投下して、2030年には放送外収入を全体の60%を占めるまで拡張することを目標としています。
これまでTBSグループで持っているサービスはそれぞれバラバラの会員基盤を持っており、ユーザもそれぞれ登録しないといけないという利便性の課題がありました。
併せて、サードパーティCookieの課題や、プライバシーの観点から顧客データの取り扱いが厳しくなってきているトレンドがあり、グループ全体でファーストパーティデータを主体的に取得し、適切に管理していく必要が出てきたことから、TBS ID構築プロジェクトが始まりました。
※1 EDGE戦略 = Expand Digital Global Experience。「デジタル分野」「海外市場」「エクスペリエンス(ライブ&ライフスタイルなど体験するリアル事業)」の3分野をコンテンツ拡張の最重点領域とする、コンテンツ価値の最大化を目指す拡張戦略。
当時抱えていた課題、それに対して必要だったチームの役割とは?
プロジェクト発足時にはどのような課題に直面しましたか?
藤居 RFPを作成する中で、顧客基盤・認証基盤・分析基盤、それにインフラ基盤を加えて4つの基盤を定義し、要求事項を整理しました。こちらの人数も少ないのでなるべくまとめたかったのですが、専門性が高い個々の領域を組み合わせる必要があり、結果的にマルチベンダー構成となりました。どこかひとつのベンダーに依存してベンダーロックインされることを避けるためにも、マルチベンダー構成は有効と思われました。
しかしマルチベンダー構成については、コミュニケーションコストが増えるなどベンダーコントロールのリスクがあることを課題と感じていました。
一方で内製化も推進しました。TBSグロウディアを内製化の中核として、TBS ID開発作業の中でメンバー育成を前提とした体制を構築しました。しかし全てを内製化することはできないので差別化領域に注力し、他の領域についてはベンダーに頼ることとなりました。
(右奥)TBSホールディングス 藤居氏
アンドゲートが求められた理由
結果的に、3つある基盤のうちの1つである顧客基盤と、全基盤にまたがるインフラ構築をアンドゲートにお任せ頂きました。弊社を選んだ決め手は何だったのでしょうか?
藤居 ベンダー選定の中で、各基盤の特性に対し、強みを持ったベンダーとの体制構築と、適切に技術選定することが重要だと考えておりました。
TBS ID自体は5年、 10年といった長期スパンで運用していくようなサービスを想定しており、開発を内製化する観点でも「継続的な内製化を見据えた技術選定」が必要と考えておりました。技術的な視点では「デファクトスタンダードであること・学習コストが低いこと・運用コストを下げられること」を軸に考えておりました。こちらはインフラ領域については特に意識した部分になります。
安藤 長期に運用していく中で求められる姿も変わるでしょうし、これからつなげていくサービスも個性の強いものが多いので、長く寄り添ってもらえるベンダーを求めていました。
星 顧客基盤についてはフルスクラッチで開発することが多くなると思っており、専門家として設計段階から同じ課題を見据えて歩んでいただかなくてはなりません。技術選定についても開発スピードが出しやすく、コードの変更に柔軟に対応できるような、スタックが必要だと考えておりました。
藤居 マルチベンダー構成になったので、内部的には基盤間連携部分について、プロジェクト推進の観点でコントロールの懸念がありました。そのため、選定の段階でなるべく広い範囲をカバーいただけるかどうかも重要だったので、顧客基盤・インフラについてアンドゲートさんとご一緒することにしました。
(左から)TBSグロウディア 安藤氏・星氏
チームワークは単なる受発注の関係を超え、期待以上の価値を生み出した
体制が整った後、どのような役割分担でチームを組成したのか教えてください。
藤居 プロダクトに求める提供価値・ターゲット・サービス要求や要件の整理はTBSホールディングスで行ない、開発面においてはTBSグロウディアが中心となり各ベンダーを取りまとめました。
アンドゲートはマルチベンダー構成のうちの一社という位置づけであったわけですが、プロジェクトを進めるにあたり、TBS様側とはどのような議論や調整がありましたか?
藤居 TBS側のプロジェクトのメンバーは、システム構築観点でのプロジェクト管理だけでなく、TBS IDシステムをプロダクトとして捉え、グループ全体にどういった価値が提供できるのか、に注力することが求められました。この2つの領域は密接に繋がっていると考えており、開発ベンダーにもTBSグループの事業や目指すべき方向性を意識しながら推進いただく形が理想でした。
結果、役割が明確化して、意志をもった開発体制を築くことと、バランス感の良いベンダーコントロールができました。
アンドゲートさんとは、単なる受発注の関係を超え、双方がプロダクト観点を持って事業ゴールを目指して日々取り組んでいくことをお約束頂きました。実際にインフラ構築の際には、ローンチ後の保守性などを考慮した技術選定など、アンドゲートさん側から積極的に提案ベースでの対応をして頂きました。
川合 アンドゲートさんはこちらが言ったとおりに開発するだけではなく、要件の背景にある事業側の目的やこちらの意図を汲み取って提案してくれました。なぜこうしたいのか、どのような理由があるのか深掘りしてくれたことで、よりよい提案をいただけたことも多かったですね。お互いにいいものをつくろうというモチベーションを持ってコミュニケーションを取れたと思います。
(左から)TBSホールディングス 川合氏・藤居氏
TBSグロウディア様が注力したこと
TBS IDのシステム構築において、TBSグロウディア様が果たされた役割について詳しく教えてください。
藤居 TBSグロウディアには24時間365日体制でサーバ運用をしているチームがあります。サービススタート後の運用には、このチームに協力してもらいました。クラウドの技術に長けている訳ではありませんでしたが、知見がない部分についてはアンドゲートさんの提案を信頼して積極的に取り入れました。
川合 マルチシステムでのプロジェクトとなるので、監視が煩雑になることを懸念してましたが、構築フェーズから運用後の監視通知について検討していたので、現在も適切な監視体制・通知がなされています。どこを監視すべきか、実際にサービスがダウンする閾値はどれくらいかなど、アンドゲートさんから具体的な提案をいただけたので、運用・監視に必要なリソースも明確に見通せるようになりました。新たなサービスを検討する際のコスト算出も早くなり、事業部に対してもわかりやすく優先順位をつけて提案できるので、コミュニケーションを取りやすくなりました。
システムの構築が完了してサービス提供の「終わり」ではなく、「始まり」なんだと感じさせて頂く事ができました。
提案したシステム構成の最適解
TBS IDのシステム構成について詳しく教えてください。
川合 TBS IDのアプリケーション部分には、顧客基盤・認証基盤があります。認証基盤は、主にTBS IDにおける認証機能を管理します。顧客基盤は、TBS IDとしてのユーザ向けサービスを担います。また、TBS IDをサービスする上で収集したデータや、連携サービスで持っているデータを一手に集約し、利活用する分析基盤があります。そしてそれらの基盤を載せるためのインフラが形成されています。
特に重要な技術やスキルは何でしたか?このプロジェクトに参加するために必要なスキルや経験はどのようなものでしょうか?
鎌田 サービススタート後の運用・監視をTBSグロウディアで担当するのですが、レガシーなシステム運用の経験しかなく、AWSによるインフラストラクチャ構築の知見が不足しており、クラウドらしいモダンな開発・運用スタイルが身についていませんでした。アンドゲートさんはTBSグロウディアを支えるITパートナー企業として、クラウドの特性を活かした設計・開発の技術を惜しみなく提供してくださり、効率的な運用・監視の手法についても提案してくださいました。
アンドゲートのエンジニアが注力したこと
TBS IDのリリースに当たってアンドゲートが果たした役割として評価いただいているのはどのような部分でしょうか?
川合 マルチベンダーかつマルチシステムのプロジェクトであることに加えて、コロナ禍という時期的な要因もあり当初はコミュニケーションに不安を感じていました。
情報のキャッチボールの中でこぼれ落ちるボールが出てくるのではと懸念していたのですが、これは杞憂に終わりました。アンドゲートさんはフルリモートでの仕事の進め方に慣れていて、インフラからアプリケーションまでフルスタックでの開発知見を活かして開発を進めてくださいました。
特にCI/CDの作り込みは見事でした。各ベンダーが開発しているアプリケーションごとにCI/CDのフロー構築が必要でしたが、それぞれのサービスのリリースフローに合わせて対応してくださいました。
円滑なコミュニケーションだけでなく、AWS開発において高い技術力を持つアンドゲートさんだからこそ、不整合なく開発を進められたのだと思います。最後にAWS社にインフラ設計についてレビューしてもらったのですが、よくできているとコメントをいただけました。
それぞれが担当範囲の役割について、目先の構築だけでなく、全体を見渡して先回りした構築ができていたというのも、成功のポイントでしょう。
提供するのはサービスの「その先」
アンドゲートのサービスや対応内容等はいかがでしたか? 開発において印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
楯 クラウド開発の技術力と知見を持つアンドゲートさんと、信頼感をもってワンチームとして開発に取り組めたのはとてもいい経験になりました。
知らなかった技術について勉強会を実施してくれるなど、メンバーの成長に寄り添ってくれたのは助かりました。実際のニーズに応じた勉強会なので、自分ごととして学ぶことができました。
結果、事業領域を横断して使えるシステム基盤を自社で構築が出来たと感じています。
内製化によって得られた事は、想定していた事より大きく、幅も広いものになったので、今このタイミングでこの領域への投資を行なって正解だったと感じています。
(左から)TBSグロウディア 星氏・楯氏
プロジェクトを通して得られた成果
今回のプロジェクトを通じて、TBS様はどのような成果を得られたのでしょうか?
安藤 最大の成果は、AWSのベストプラクティスに準拠したOU設計(※2)による、AWSマルチアカウントアーキテクチャを獲得できたことです。
VISION2030の達成に向けて、今後TBSグループが持っている各サービスの強みを打ち出していくための土台となるアーキテクチャを構築できました。またその開発過程において、アンドゲートさんに支えられながら、TBSグロウディアが開発の中心的役割を担うことで、開発の成功体験とノウハウの蓄積にもつながりました。
※2 OU設計= 適切なアクセスコントロールとポリシー管理を実現するための手法。
TBSグロウディア 安藤氏
内製化によって得られた具体的な成果としては、どのようなものが挙げられますか?
鎌田 TBSグロウディアにもAWSの経験はあったのですが、マイクロサービスを駆使した設計・開発は初めての経験でした。アンドゲートさんが持つ、AWSのサービスを活かしたクラウド的な設計手法を知ることができたのは大きなプラスになりました。
New Relic(※3)を使った運用・監視も初めてで、New Relicのサポートから多くの助言をいただきました。その知見をアンドゲートさんが詳しくドキュメントに落とし込んでくださり、監視通知に手順書を添える運用を提案していただきました。おかげで経験が浅いメンバーでも手順書通りに操作することで対応できるようになりました。
藤居 社内向けシステムとは異なり、B2Cサービス向けである点や、TBSグループや放送業界特有の商習慣を理解した上でサービス設計するなど、柔軟にプロジェクトを進める必要があると改めて認識させられました。
今回の経験を経て、このような開発・運用・施策実施のノウハウが社内に蓄積されました。
ID利用会員の拡大・利用サービスの拡充フェーズにおいては、現状運営されているサービスに対してTBS IDを導入する活動がメインとなってきます。今回構築した開発体制や管理手法で、プロジェクト外の変化に柔軟に対応できたことから、今後のTBS ID導入にも自信を持って対応していけます。
結果的に 「想定以上に成熟した開発プロジェクト」が実現出来たと感じています。
※3 New Relic = モニタリングや分析を提供するクラウドベースのソフトウェアプラットフォーム。
主にアプリケーションやインフラストラクチャのパフォーマンス監視、トラブルシューティング、およびデータ分析のために使用される。
プロジェクトを通じて、チームや個々のメンバーはどのように成長しましたか?
藤居 TBSとしてもこれだけの規模のB2C向けシステム開発は初めてで、構築後もアジャイル型のスクラム開発手法を取り入れるなど、会社としても前例のない取り組みにチャレンジできていると感じています。
今回、自分たちで制御可能な価値提供できるハードができたことで、よりサービスの質の向上に寄与する支援ができつつあります。またプロダクト開発の観点でも、品質向上に寄与する機能をTBS IDとして提供するという手段を得られたので、支援策としての打ち手の幅が広がったと考えています。
安藤 諸課題がある中で、モダンな技術スタックで、スクラム開発手法を用いなければ立ち行かないという状況を肌で感じています。B2Cビジネスの最前線でWeb開発をしている先行企業たちと、ようやく同じスタートラインに立てたのではないでしょうか。まだまだ人もナレッジも足りないところなので、社内外でパートナーを広げて競争力を高めたいですね。
TBSグロウディア 鎌田氏
TBS IDリリース後の状況と今後の展望
TBS IDをリリースした後の、反響や成果はいかがでしたか?
川合 社内の他の開発プロジェクトと違い、システム自体をブラックボックス化せず、開発の一部を内製化したことで、システム理解の解像度が高められたと感じています。ロードマップ・タスクが頻繁に変更される中で、適宜優先度を組み替えて柔軟に対応できたのも、内製化による成果だと思います。
クラウドの特性を活かしたモダンな開発を推進していることで、社内からも注目されています。また昨今は個人情報管理にも関心が寄せられており、その観点でもTBS IDの取り組みは評価されています。
今後のTBS IDに関する計画や展開について教えてください。
川合 VISION2030を実現するため、EDGE戦略へのアラインに向けて今後も連携サービスへの導入を進めます。それに伴い、TBS IDがより魅力的なプロダクトになるため開発を進めて、 各サービスがTBS IDを導入したいと思ってくれるようなプロダクトに育てて行きたいですね。
加えて、TBS IDに溜まったデータを使ったユーザー分析や、CRMなどのマーケティング支援など、連携サービスを品質の向上に繋げる実績として積み上げていきたいと考えています。そうした中で、既存事業の収益向上や、中長期的には会員向けの新規サービス展開や、ファーストパーティデータを活用した広告事業の展開なども推進したいと考えています。
(左から)アンドゲート 西藤・中野
このプロジェクトに関わったメンバー
アンドゲート
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営業部 セクションリーダー
西藤 尚信
金融系企業の営業出身ながら独学でプログラミングを習得、アンドゲートの扉を開く。
様々な業界において、現状や抱えている課題、今後の理想をヒアリングし、最適解を提案。
顧客が抱えている課題の上流のボトルネックを特定し解決することで価値提供をする事を得意としている。
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次世代MSP事業部 セクションリーダー
中野 凌
独⽴系SIer企業にてオンプレミスの⼤規模システム構築プロジェクトに参画し、インフラエンジニアとしてのキャリアをスタート。 その後、クラウドを利⽤したプロアクティブなエンジニアリングに興味を持ち2018年にアンドゲート⼊社。 インフラエンジニアとして、クラウドサービスを活⽤したシステム提案から構築後の運⽤保守まで幅広く経験。 先回りする運⽤・持続可能な運⽤を念頭に脳に汗をかくことで快感を得る。
現在はセクションリーダーとして、事業部のチームビルディングに⼼⾎を注いでいる。
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